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Adjust Ignite Tokyo 2025:その広告、本当に効果がありますか?
「その広告、本当に効果がありますか?」と題されたパネルディスカッションは、アプリ業界でいまだ浸透していないインクリメンタリティ(増分効果)の概念とその活用方法に焦点を当て、マーケティング全体を俯瞰する3名のパネリストが議論を交わしました。
パネリストは、HJホールディングス株式会社 マーケティング部 パフォーマンスマーケティング マネージャー 戎翔平氏、ニフティライフスタイル株式会社 LIFE STYLE事業本部 住まい事業部 マーケティングチーム リーダー 増尾 健太氏、株式会社asken コンシューマー事業本部 マーケティング部 部長 渡辺 良介氏が登壇し、Adjust Senior Enterprise Customer Success Managerの山根竜二がMCを務めました。
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インクリメンタリティとは何か
セッション冒頭、MCの山根はインクリメンタリティの基本的な概念について説明しました。例えば、2つのグループに分けられた人々に対し、片方には特定の商品の広告を見せ、もう片方には見せない場合を想定します。広告を見たグループの方が、その商品を選択する割合が多かったとき、この広告を見たことによって増えた商品の選択数こそがインクリメンタリティ、すなわち増分効果です。これは、単に広告を見た人々の購入数を追うだけでなく、「広告がなかった場合に購入したであろう数」を差し引いた、真に広告がもたらした追加の成果を測る重要な指標であると説明されました。
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各社のインクリメンタリティに関する課題と理想像
ニフティライフスタイル株式会社の増尾氏は、ニフティライフスタイルで実際に発生した事例を基に、課題と理想像について語りました。新たな有料広告媒体を開始したところ、新規獲得は増えたものの、それとほぼ同数のオーガニック流入が減少するというカニバリゼーション(共食い)が発生したといいます。これにより、広告費用を投じたにもかかわらず、総量としては無駄な費用となってしまったと分析。 理想としては、有料広告の投資が全体の純増に繋がる状態を目指すべきだとし、そのためには有料広告の投資効果だけでなく、ブレンデッドCPA(オーガニックと有料広告を合算したCPA)のような全体を俯瞰する視点とモニタリングが不可欠であると強調しました。
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新規獲得とほぼ同数のオーガニック流入が減少する「カニバリゼーション(共食い)」が発生。スライド内の具体数字はダミーデータ。
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理想は、広告が全体の純増に寄与すること。スライド内の具体数字はダミーデータ。
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株式会社askenの渡辺氏は、増尾氏とは逆の観点から、Web広告がオーガニックに良い影響を与える可能性について言及しました。ユーザーが広告に接触し、直接コンバージョンに至らないまでも、その記憶が残り、後で検索や比較行動を経てオーガニック流入に繋がるケースがあると指摘。このような広告による純増分のCV(コンバージョン)をカウントできれば、直接CVだけではCPAやROASが見合わないと判断されがちな媒体でも、その純増効果を可視化することで継続的な投資判断が可能になると述べました。ローデータ分析を通じて、印象的なクリエイティブや訴求軸がオーガニックの底上げに寄与している事例を発見できると語りました。
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HJホールディングス株式会社の戎氏は、「コンバージョンの価値」という視点から、デジタル広告の数字だけを鵜呑みにすることの危険性を指摘。ユーザーのモチベーションの違い(プル型広告とプッシュ型広告)、遷移先(Webとアプリ)による計測手法の違い、アトリビューションモデルの多様性、広告枠の見えやすさなどが、コンバージョンの意味合いを変えると解説。 例えば、偶然タップされたコンバージョンと、熟考の末のコンバージョンでは、同じ1コンバージョンでもその価値は異なると主張しました。これらの文脈を把握した上で、増分効果を計測し、コンバージョンに重み付けをして評価する「重み付け係数」の導入が理想であると述べました。
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各社の組織体制と分析手法
ニフティライフスタイルでは、かつて有料プロモーションチームが個別のKPIを追っていたため、オーガニックとのカニバリゼーションに気づきにくかった経験から、現在はマーケティングチーム全体でオーガニックを含めた全体のコンバージョンをKPIとし、ブレンデッドCPAを重視する体制に移行したと増尾氏は語りました。
askenでも、少人数でプロモーションを動かしているため、ペイドとオーガニックを分けて担当することはせず、全体の入会数をチームの目標にしていると渡辺氏は述べました。
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オーガニックを含めた全体のコンバージョンをKPIとするブレンデッドCPAの概念 ※スライド内の具体数字はダミーデータ。
一方、HJホールディングスでは、VODサービス特有の季節性や突発的な要因(地上波ドラマの最終回放送など)による獲得数の変動が大きいため、MMM(Marketing Mix Modeling)などのモデル検証ツールを活用し、配信期間を細かく区切って比較することでバイアスを排除し、インクリメンタリティを計測していると戎氏は説明しました。
また、askenの渡辺氏からは、ショート動画広告の出稿によって、若年層男性のオーガニック流入が純増した事例が紹介されました。ローデータ分析の結果、ショート動画の配信実績とオーガニック流入の相関が見られ、ユーザーの視聴後の行動がオーガニックに繋がっていることが判明したと同氏は分析しています。
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ニフティライフスタイルの増尾氏は、リターゲティング広告におけるインクリメンタリティの検証事例を共有しました。離脱直後のユーザーは熱量が高く、広告に接触しなくてもコンバージョンに至る可能性が高いと考え、離脱直後のユーザーへの配信を大幅に除外した結果、個別のROASは低下したものの、コンバージョン総量は増加したと述べました。
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離脱直後の熱量の高いユーザーへの配信を除外しても、全手合いのコンバージョン総量は増加するという。※スライド内の具体数字はダミーデータ。
HJホールディングスの戎氏は、特定の媒体で実施したダミー広告検証の事例を紹介しました。本来の広告と全く関係のないダミー広告を表示した結果、ダミー広告からも一定数のコンバージョンが発生する広告枠があることが判明。これは「広告を出さなくてもコンバージョンが発生する」ことを意味し、インクリメンタリティが低いと判断。枠ごとにインクリメンタリティの割合を算出し、入札を調整する施策を行ったと述べました。
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検索広告におけるインクリメンタリティの考え方
増尾氏は、ユーザーのサービスへの期待値に応じて入札の強弱を変えるべきだと述べました。例えば、ニフティ不動産のように「横断的に不動産ポータルを見たい」という明確なニーズで検索するユーザーは、広告を出さなくてもオーガニックで流入する可能性が高いため、強く入札する必要はないと分析。一方で、カジュアルゲームなど、「余暇を潰す」といった漠然としたニーズの場合は広告を強化すべきだとしました。
渡辺氏は、自社サービス名での検索広告について、競合の出稿状況を見ながら調整していると述べました。競合が少なく、ユーザーが自社サービス名で検索している場合は、広告を出稿しなくてもオーガニックで流入する可能性が高いため、出稿を抑制する判断も行うといいます。
戎氏は、検索広告のブランドワードについて、時期やユーザーモチベーションによって判断を変えていると語りました。例えば、地上波ドラマの最終回後に「続きはHuluオリジナルストーリーで」と告知する場合、ユーザーは明確な目的を持って検索しているため、広告を出さなくてもオーガニックで流入する可能性が高いと指摘。一方で、長期休暇など漠然としたニーズが想定される場合は、競合に流れる可能性を踏まえ、広告出稿が有効と判断する場面もあると述べました。
今後の展望とまとめ
パネルディスカッションの最後に、各登壇者が今後の展望について語りました。
戎氏は、今後もインクリメンタリティ検証を継続し、Web、アプリ、テレビといったクロスデバイスでの費用対効果の高いプラットフォームに予算を投下していくことで、マーケティング活動の価値を追求していきたいと述べました。
増尾氏は、引き続き俯瞰的にデータを見る視点を重視し、自身の担当外のKPIであっても、本質的に繋がっている可能性があるため、組織やチーム全体で目線を合わせていくことの重要性を強調しました。
渡辺氏は、他社の事例も参考にしながら、分析ツール導入による費用対効果の高い施策の見極めを強化していきたいと述べました。また、ストーカー的なデジタル広告になりがちな現状を踏まえ、SNS運用やコンテンツマーケティング、コミュニティマーケティングなど、ユーザーとのより良い出会い方を創出できるような投資を目指していきたいと語りました。
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MCの山根は、インクリメンタリティの追求には、ブレンデッド CPAのような社内KPIの整備、ローデータ分析、そしてAdjust Insightsのようなツールの活用が不可欠であるとまとめました。特にAdjust Insightsは、広告機能と連携することで、機械学習に基づいたインクリメンタリティ効果のレポートを簡単に確認できると紹介し、ユーザーに活用を呼びかけました。
「その広告、本当に効果がありますか?」という問いは、データと仮説検証に基づいた多角的な視点から、広告の効果を真に理解し、最適化していくことの重要性を示唆するものでした。
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